fc2ブログ


Mirror of mind (epilogue・Last)

*

パタンと閉じたドアの音を聞くと阿部は二杯目を頼んだ。
すっとグラスを差し出したマスターが「美しい方ですね」と珍しく話しかけてきた。

「本当に・・・嫌味なぐらいにきれいだったな」とぽつりとつぶやく。
マスターはそれ以上語らず阿部は物思いに沈む。

数日前、あの夏祭りの夜に再会したしのぶもとても美しかった。
けれど今日のしのぶは、それ以上に内面から光を放っているかのようだった。

愛し愛される相手ができると女はああも美しくなれるものだろうか。
あの夜のしのぶを見送ったあとの後藤の顔が脳裏に浮かぶ。

迷子の子供のような、泣いているのか笑っているのかわからないような刹那に
見せたあの顔。見てしまった自分が泣きたくなるような・・・・・・。
いつか自分も誰かを想って、あんな顔をする時があるのだろうかと阿部は考える。

「しあわせに」

阿部はグラスを上げてつぶやくと酒をぐっと飲み干した。

*

喫煙所から戻って来た後藤は、マナーモードにしてあった携帯が机の上で振動して
いるに気がつき手に取る。表示には南雲しのぶとあったので、慌てて出た。

「もしもし、しのぶさん?」
「後藤さん、今晩は出動してないの?」
「うん、今の所平和だよ」

後藤は、自分の机に浅く腰掛ける。無言のしのぶにいつもと違った雰囲気を感じた後藤は、しのぶが口を開くまで黙って待つ。

「・・・・・・阿部君に告白されたわ」
「うん」

またしてもちりっと胸が痛む。

「でも私が後藤さんと付き合ってることもみんなお見通しで・・・・・・」
「うん」

「自分が好きになった相手が、自分のことを好きになってくれるってすごいことなんだなって思って」
「うん」

「もう後藤さんったらもっと何か話してちょうだい!」
「うん?」

「・・・本当は今すぐ会いたいけど・・・無理だから・・・せめて声が聞きたい・・・のよ」

しのぶの言葉に後藤は黙りこんでしまった。

「・・・ちょっと?後藤さん?聞いてるの?」
「え、あ、うん・・・・・・電話だとしのぶさん、素直と言うか大胆と言うか・・・今どこからかけてるの?」

多分今真っ赤になっているであろうしのぶの顔が想像できて後藤の口元が緩む。
案の定怒った声でしのぶの言葉が耳元に流れる。

「東京駅南口のタクシー乗り場の前よ。
東京駅がライトアップされててとてもきれいだわ」

後藤の脳裏にも赤レンガ作りの東京駅が浮かぶ。
「俺も今すぐ会いたいよ、しのぶさん・・・・・・電話してくれてありがとう」

後藤の言葉に今度はしのぶが黙りこんでしまう。

「しのぶさん?」
「あのね・・・」
「うん?」
「多分じゃなくて・・・」
「うん」

「愛してるわ、後藤さん」

後藤が目を見張ると同時に「じゃあ、明日」と言ってしのぶからの電話は切れてしまった。しばし呆然としていた自分に気づいた後藤は手に持った携帯をじっと見つめた。

「・・・・・・あんまり男を泣かせないでよね、しのぶさん」

後藤は、そうつぶやくと窓の外の月を見上げた。
明日の朝しのぶがここへ来るまでの時間が、とてつもなく長くなりそうだと思った。

(終)
スポンサーサイト



【2010/08/30 00:00】 | fanfic | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
<<あとがきという名のいいわけ(Mirror of mind (epilogue)) | ホーム | Mirror of mind (epilogue・4)>>
コメント
コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバックURL
→http://happyhappy226.blog41.fc2.com/tb.php/775-679481eb
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
| ホーム |